秒速5センチメートルをみました
娘がキャンプに行っている晩、娘の世話が必要なかった分、いつもより2時間は多く夜の自由時間が取れました。
こんなに長い時間も自由時間で一体どうしたら良いんだと軽く挙動不審になりかけましたが、夫と話しあった結果、新海監督の別作品の「秒速5センチメートル」を観ようという事になりました。
新海監督というのは皆さんもうご存知の「君の名は」の監督です。
秒速5センチメートルの物語の構成
この「秒速5センチメートル」は3部構成になっていて、それぞれのサブタイトルがそれぞれ
- 「桜花抄(おうかしょう)」
- 「コスモナウト」
- 「秒速5センチメートル」
であり、各部大体20分の合計約60分になっています。
以下それぞれの感想を書いてみます。
桜花抄
2人はかなり仲が良く(これが元でクラスメイトに何度も2人の関係を揶揄われる)、2人ともこのままずっとここで過ごすと思っていた中、突然女の子が親の都合で小学校卒業と同時に東京から栃木に引っ越しに。その後暫くしてから男の子も東京から鹿児島へ引っ越しになる。
鹿児島に引っ越す前に再会するストーリーがこの部の見せ場。
観た感想としては、男の子が11‐12歳の割にはものすごく落ち着いていて、目を閉じて彼の言葉だけ聞いていると何だか大学生のようでした。
経験則的に、あの年齢なら「好き」という自分の感情に素直になれず、好きな女の子にやたらちょっかい出して泣かしてしまう年齢だと思うんですよね。やたらと小難しい言葉を言うあたりがエヴァンゲリオンの「碇 シンジ」に激似で、私が代わりに激似届を出そうかと思うくらいでした。
再会シーンでは、激しい積雪のためにその男の子が乗って向かっていた電車のダイヤが乱れ、再会は結局約束の夜7時から大幅に遅れて、4時間遅れの深夜11時になってしまう訳です。でも当時13歳の女の子はそれでも帰らずに、1人ずっと最寄りの駅の待合室のベンチに座って、彼が電車に乗ってやって来るのをずっと待っている訳なんですよね。
このまだ幼いと言っても過言でないこの年齢の女の子が1人でそんな夜遅くまで駅に居て、彼女の親は心配しないのでしょうか。
駅員さんもそんなに長い間居る女の子に帰るように促すはずだと思うのですが、全く平然と一緒にいるあたりに現実感の欠如を感じてしまいました。
また女の子と再会した時点で、恐らく男の子は終電を逃したと思うのですが、その対応策として彼女が彼を自分の家に連れて行って親に事情を説明し、一晩泊める方向が一番現実味があるかなと誰もが思うところ、この2人はこの雪が吹き荒ぶ寒空の中、近くの小屋に2人で行って寒い寒いと言いながら一晩過ごします。
この話の流れ、絶対に彼女の親は黙っていないと思うんですよね。
いや男の子の親だって相当心配したでしょう。
私がもしこの年齢でこんな事をしたら、恐らく親から物凄い剣幕で怒られ、数発ビンタされていると思います。
親の立場で考えても、もし娘がそんな夜遅くに出かけて何時間も帰ってこない、その上結局一晩帰ってこないなんて状況になったら、私ならまず警察に連絡しています。この現実の欠如が随所に感じられて私はどうにも馴染めませんでした。一言でいうなら「寒いなら家に連れて帰りなさい、凍死するよ!!」です。
でも若い青年が見る分にはそんな親の心配なんて考えもしないでしょうから、すんなり物語に溶け込めるのかもしれません。
コスモナウト
基本的には一方的な女の子の片想いで、彼と一緒の学校に行きたいがために彼女は懸命に勉強を重ね、同じ高校に入学を果たす。
その後高校卒業までの合計6年間の、彼女の想いと男の子の想いのすれ違い、交錯を美しい風景と共に綴るストーリー。
観た感想としては、ここでもこの男の子の憂いの多さは健在であり、また同じく、13-18歳のこの年齢にはかなり不相応な、異性への心的垣根の無さ、慣れたような女の子への気遣いや優しさが垣間見れました。
勿論こんなに優しくされて、好きにならない女の子は居ませんが、この男の子はそれを知ってか知らずか、続けて意味深な態度を取り続けます。最後に女の子は「もうこれ以上優しくしないで」と叫びに似た想いを抱きますが、全く以て頷ける話です。
彼女は最後にその男の子に告白を試み、結果的には言えずじまいで終わりますが、もしここで成立したとしても、彼女がこれで幸せになったかどうか私には疑問です。常に遠くを見続け憂いている彼に告げたところで、一体どの程度その果てしない夢から覚めるのか分からないですし、最終的に自分を見てくれないのなら、幾ら物理的に近くなったとしても互いの心は遥か彼方に離れていて、2人でいても心は1人ですからね。これで良かったんじゃないかという女の子の保護者的な観点のまま終わりました。
1つ敢えて特筆するとしたら、風景描写は半端なく美しかったです。非現実的な程に美しい夜空は、現実的じゃないと分かっていながらも、その美しさに見惚れてしまう程でした。あの夜空を私もいつか見たいです。
「秒速5センチメートル」
東京の大学に入学することで東京に戻ってきた彼。大学を卒業し社会人となる。3年付き合った女性と別れた頃、ふと小学校の時にとても仲が良かった女の子を思い出すことになる。そこで彼は昔から長い間抱き続けていた憂いは、彼女の失ったことによるものだと気付く。しかし彼女との連絡はもう既に途絶えていて、今どこで何をしているのか知りようがなかった。
そうしているうちに、小学生の頃にその子と一緒に歩いた踏切に辿りつく。そこを渡ろうとした時、同じように向こうから歩いてきた、とある女性とすれ違う。まるでその女の子が大人になったような女性に。
「彼女かも知れない」そう気が付いた時、同時に振り返るような素振りを見せる彼女。しかしその瞬間、彼と彼女の間に遮断機が下りてしまい、彼女の姿は電車で見えなくなってしまった。
暫くして電車が通り過ぎて遮断機が上がった時には…自分を待ってくれていると思っていたその彼女は、もうそこには居なかった。
このパートは既に欝々とした彼の描写から始まり、そこからは彼の中の想いや回想が物語の中心となっていますです。
途中から山崎まさよしさんの”One more time , One more chance”の歌にのせて彼の周りに起こった物語が断片的に進行していきます。山崎まさよしさんの歌が彼の切羽詰まった心情をよく表しているなあと感心しているうちに、物語がふと完結します。
これは一言でいえば
「十数年かけた恋が大失恋で終わったという物語」
でした。それが余りに呆気ない。
私もいつ終わったのか分からず暫くポカンとしていたくらいです。
正直今でもちょっと不思議な気持ちが抜けきれていません。
個人的な感想としては狐につままれた感が否めず、気になって検索してみたんですが、やはりこの結末については賛否両論があるようです。驚いたことに、どうやら男性からは絶大な支持を得ているそうですが、これを観た男性の方々はどう思われたでしょうか。私が見つけたサイトをここに紹介します。

もしかして自分がまだ若かったり、家庭を持つ前の立場だったらまた感想も違っただろうと思います。特に第一部は親目線でやっぱり見てしまうところがあったので、家庭を持つ前とは解釈は全く違うだろうなという自覚があります。
しかし繰り返して書きますが風景の描写が半端なく素晴らしいです。特に都内に住んでいる方はあまりにリアルな描写に、あたかも自分もそこに居るような気にすらなると思います。舞台は2008年の東京。昔の風景をとても懐かしく思いました。
コメント